恐竜チタノサウルスのこと

亀井 節夫

 

はじめに

 数年先までの恐竜展が予定されいて、恐竜への関心はますます高まっているようです。

 徳島県立博物館には、チラノサウルスとチタノサウルス(ティタノサウルスと書くこともある)という2種類の恐竜の骨格が展示されていますが(図1)、「ラ」と「タ」の違いだけでまぎらわしいと思う人もいることでしょう。前者は獣脚類(じゅうきゃくるい)、後者は竜脚類(りゅうきゃくるい)と別の仲間の恐竜で、チラノサウルスの方は有名ですが、チタノサウルスはあまり知られておらず、日本ではここだけでしか見ることができないので、少しばかり紹介をすることにします。

巨大なトカゲ

 チタノサウルス(図2)の「チタン」はギリシャ神話の巨人、「サウルス」はトカゲのことなので、チタノサウルスとは「巨大なトカゲ」という意味になります。実際に、チタノサウルスの仲間には巨大なものが多いのですが、徳島県立博物館のものは小型なので、名前にはふさわしくないと思われるかもしれません。

 今から170年ほど前のことです。インドのベンガル地方で骨の化石が採集され、ライデッカーという学者がそれらが恐竜の尾椎(びつい)と大腿骨(だいたいこつ)であることを明らかにし、「チタノサウルス・インディカス」という名をつけました。その後、ライデッカーはアルゼンチンの恐竜化石も調べ、それらがインドのものに近いと考え、「チタノサウルス・アウストラリス」という名を与えたのです。その恐竜には10個体分以上の骨化石があり、徳島県立博物館で展示されているのは、そのうちの一組のレプリカを組み立てたものです。アルゼンチンでは、この恐竜の仲間は4種類ほど見つかっていて、いずれもチタノサウルスとして報告されました。しかし、その後の研究では、それらはインドのチタノサウルスとは違うことがわかり、今では「サルタサウルス」という別な名が使われています。どちらも脊椎骨(せきついこつ)の形は似ていますが、四肢骨がインドのものは薄くて華奢(きゃしゃ)であるのに、アルゼンチンのものは頑丈(がんじょう)であることが違います。また、サルタサウルスは体長7メートルくらいで、竜脚類としては小型なのですが、チタノサウルスは大型で、体長が25〜30メートルもある巨大なものもあります。

チタノサウルスの進化

 チタノサウルスもサルタサウルスも、「チタノサウルス類」という恐竜の仲間で、ともに白亜紀後期(約7000万年前ころ)のものです。遠く離れたインドと南アメリカに、同じ時期に同じ仲間の恐竜がいたのは不思議なことですが、中生代という地質時代には大陸の分布が今とは違っていて、アフリカ・アラビア・インド・南アメリカ・オーストラリア・南極の諸大陸は互いにくっつきあって、ゴンドワナという一つの大きな大陸をつくっていました(図3)。チタノサウルスもサルタサウルスも、このゴンドワナ大陸に住んでいた同じ仲間の恐竜だったのです。

 チタノサウルスの仲間にはたくさんの種類が知られていますが、そのほとんどが白亜紀後期のものです。それらのお互いの関係はよくわかっていませんが、どれが先祖でどれが子孫か、進化の過程でどのように変わってきたか、などを確かめる必要があります。先祖にあたるものとしては、東アフリカのマラウィで見つかっている白亜紀前期のマラウィサウルスが、直接の先祖ではないかとされています。

日本のチタノサウルス

 徳島県で、イグアノドン類の恐竜の歯の化石が見つかったのは1994年のことでした。化石を産出した勝浦町の立川層は、黒瀬川帯という特異な地質構造帯に分布していて、この地帯は紀伊半島を横切り、志摩半島にもつながっています。志摩半島では、立川層と同じ白亜紀前期の松尾層群という地層があり、1996年に三重県鳥羽市の海岸でその地層から恐竜化石が発掘されました。発掘当時は、中国南部で見つかっているマメンチサウルスという大型で首の長い竜脚類に近いとのことでしたが、その後、チタノサウルスの仲間ではないかという見解が発表されました。決め手になる背骨の形については明らかではないのですが、大腿骨や上腕骨の特徴からそのように考えられるようになったのです(図4)。この恐竜の正式な学名はまだつけられていませんが、一般的には「鳥羽竜」と呼ばれています。

 チタノサウルスは、中国大陸からは知られていません。しかし、東南アジアのラオス南部で発見された恐竜の化石は、チタノサウルスのものとされました(しかし、最近では分類上の位置が不明の恐竜のものとして扱われています)。また、タイ東部のコラート台地には、白亜紀前期の陸成層が広く分布していて、最近、フランスとタイの調査団によって恐竜化石がたくさん発掘されています。その中で、竜脚類のポウヤンゴサウルスというものと鳥羽竜との関係は、調べてみる必要がありそうです。

 恐竜は、中生代の初めにパンゲアという超大陸の上で誕生しました。その超大陸は、その後、ローラシアとゴンドワナの2つの大陸に分かれ、さらに分裂したり結合しながら今日のような大陸の分布になったとされています。このような大陸の分裂や結合の動きにともない、恐竜は地域ごとに分かれたり、また、移動してまざりあったりしたことでしょう。チタノサウルスの仲間の進化をたどることは、恐竜ばかりでなく、大陸の動きや地球全体の歴史を確かめるということにもつながることなのです。

  

図1 徳島県立博物館に展示されている“チタノサウルス”(=サルタサウルス)

図2 チタノサウルスの復元図(Hueneの指導によりG. Bieseが描いたもの。D. F. Glut著・小畠郁生訳,1981「恐竜図解辞典」による)

図3 分裂前(古生代末)のゴンドワナ大陸復   元図(M. E. White, 1990にもとづく)

図4 鳥羽産の恐竜の右大腿骨。長さ129cm。(三重県立博物館提供)

      


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